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特許出願の分割制度 -台湾と日本との比較-

弁理士 林 郁君

台湾専利法第34条の分割出願に関わる規定は、2019年度の大幅な法改正により、本来の規定:「発明特許のみに適用され、再審査査定前又は初審査査定後に分割しなければならない」から改正後の現行法:「発明及び実用新案に適用され、初審査及び再審査査定書送達後3か月以内」にまで、適用される特許種類と分割可能な時点・期間について緩和されました。

以降、台湾で特許出願をする出願人は、特許出願案について分割出願をするか否かを考慮するためのより多くの機会及び長い時間が得られ、より柔軟に特許請求の範囲を調整することができます(下記表1)。

分割請求 旧法 現行法
特許種類 発明 発明

+ 実用新案

時点 初審査査定後 初審査査定後

+再審査査定

期限 特許査定書の送達後30日以内 特許査定書の送達後 3ヶ月以内
《表1:2019年専利法改正前後の分割制度の要点比較》

ところで、台湾の現行分割制度とその他国、例えば日本と比較すれば、やはり多くの制度上の相違点が見つかります。例として 分割時点、分割できる内容、実態要件についてはいずれも違いがあります。

本文では、以下で台湾専利法の分割制度に関わる規定と日本特許法の分割制度規定とを比較対照し、台湾専利法の分割制度における改善の余地を探ります。

以下、台湾専利法第34条及び日本特許法第44条の条文ならびに関連の特許審査基準を参照しながら、分割出願関連規定の台日の相違点を挙げます。

一、分割できる主体、分割時点

台湾 日本
特許出願人 特許出願人
342

分割出願は、以下の各号の期間内に請求をする:

一、原出願案の再審查審定前まで

二、原出願案の初審査特許査定書、再審査特許査定書送達後の三か月以内

44

(ⅰ)原出願の明細書、特許請求の範囲または図面が補正できる、又は期間内

(ⅱ)特許査定書の送達日から30以内(特許権設定登録前)

(ⅲ)最初の拒絶査定書の送達日から3か月以内(平成19年4月1日以降の出願)

《表2:台湾-日本分割制度における分割できる者及び分割時点比較》

分割できる時点をみると、日本の規定では原出願の明細書、特許請求の範囲または図面が補正できる、又は期間(つまり「不服審判提起」、と「明細書が補正できる時期」)、特許査定後の30日及び拒絶査定書送達日から3か月以内に分割出願ができます。台湾の規定と比べると、日本規定では、「不服審判提起時」と「拒絶査定書送達日から3か月以内」にも分割出願ができる点において、台湾よりも機会が多くなっています。「不服審判提起時」は、タイミングとしては現行台湾特許実務における再審査請求時に対応しますが、台湾では「拒絶査定」を受けた後は、分割の機会はありません。

二、分割出願の実体要件

台湾 日本
(34Ⅳ)(要件2対応)

分割後の出願案は、原出願案の出願時の明細書、特許請求の範囲または図面に開示の範囲を超えてはならない。

要件1(34V対応)

原出願分割直前の明細書等に記載された発明の全部が、分割出願の請求項(発明)とされたものではない

(34Ⅴ)(要件1対応)

原出願の再審査査定前の分割案は、原出願が完了した手続きから審査を続行する。

要件2(34IV対応)

分割出願明細書等記載の事項が、原出願の出願当初の明細書等記載の事項の範囲内

(34Ⅵ)

原出願の初審査査定書、再審査査定書の送達後3か月以内の分割案は、原出願の明細書又は図面に開示の発明から分割され、且つ査定された請求項とは異なる発明である。分割出願案は、原出願案査定前の審査手続きから続行される。

 

要件3

分割出願明細書等記載の事項が、原出願分割直前の明細書等記載の事項の範囲内

《表3:台湾専利法34Ⅳは日本の要件2にほぼ対応し、台湾の専利法34Ⅵは日本の要件1にほぼ対応する》

表3の対照から分かるように、日本での分割出願時は、要件1~3を満足する必要があるが、もとの明細書の補正可能期間に分割出願をするときは、要件2を満たしていれば、要件3を満たすとみなされます。これは、「分割前」の明細書に記載されていない事項でも、出願時の明細書に記載された事項であれば、補正により該事項をもとの明細書に戻したうえで分割できるからです。

三、実体要件違反の効果及び分割の効果

台湾

(台湾専利法および

審査基準第2篇第十章)

日本

(日本特許法、審査基準第Ⅵ部 第1章第1節及び第Ⅲ部第4章)

1.専利法第34条第4項(元の明細書に開示の内容を超える)に違反した場合、出願人に意見陳述を通知(拒絶理由

2.分割案と親案が同じ発明を含むとき、第34条第6項違反となり、出願人に択一を通知。択一しない時はいずれも特許を付与しない

1.実体的要件が満足されていない時、拒絶理由となる。

2.分割前後の請求項記載の発明同一であるとき、39条第2項規定が適用される。出願人に択一を通知。択一しない時はいずれも特許を付与しない

《表4.分割制度における実体要件違反の法的効果の対日比較》

以上の対照から分かるように、分割出願の効果、要件違反時の効果はいずれも同じです。

四、分割できる範囲

台湾 日本
l再審査査定前まで

原出願案の出願時の明細書、特許請求の範囲または図面に開示の範囲を超えてはならない。

/再審査特許査定後の分割出願:

原出願の明細書又は図面に開示の発明から分割され、且つ査定された請求項とは異なる発明

l補正ができる時期の分割出願

出願当初明細書の内容に基づいて

行うことができる。

拒絶査定又は特許査定後の 分割出願:

「補正ができない時期の分割出願」 に 該当し、この場合分割の範囲は、 分割直前の明細書等の範囲内 (つまり、補正後の内容)

《表5:分割できる範囲の対日比較》

日本特許法規定によれば、補正可能時期(即ち、不服審判提起時及び審査段階)の分割出願は、出願時の明細書等内容の範囲で分割ができます。しかし、特許査定書又は拒絶査定書送達後(即ち、補正不可時期)は、分割できる範囲は「分割直前」の明細書等の範囲という制限を受けます。

例えば、審査段階において、補正により特許請求の範囲を縮減したり、ある部分の実施例などの事項を削除したり、または請求項の補正に伴い明細書の対応する部分を削除…、その後拒絶査定後に分割出願をしたいときは、出願時のより広い範囲まで該分割出願案を権利化することができません。

したがって、日本の特許出願の過程では、できるだけ補正期間に分割をするか否かを考慮し、出願案の将来の分割を考えているときは、実施例などをもとの明細書から削除しないようにすることが好ましいとされます。

これに対して台湾の特許実務では、特許査定後の分割出願の要件において、もとの出願時の明細書、特許請求の範囲、図面に開示の範囲を超えなければ、日本特許法の規定のように削除した事項を分割出願案で戻すことができない、という規定は見られず、また例えば分割案の請求項はもとの出願明細書に記載の実施例のうちいずれかだけが含まれるような内容でも構いません。

この点で台湾の分割出願実務は、日本よりもおおらかといえます。

五、討論のまとめ

台湾 日本
特許出願の拒絶査定の後は、分割の機会がない。再審査査定前までに分割するか否かを考慮しておく必要がある。 拒絶査定を受けた後、並びに不服審判請求時の2つの時期でさらに分割ができる。
《表6:対日分割制度の相違点整理1》
台湾 日本
出願時の明細書、特許請求の範囲開示の内容は超えてはいけないが、分割直前の明細書を超えてはいけないという制限なし。 審判請求時ではない時、分割出願は原出願の分割直前の内容を超えてはいけない。つまり、審査段階は補正された明細書の範囲で分割をする。実施形態や図面を削除する補正をしてしまうと、査定書受領後、拒絶査定書後の分割ケースでは、削除してしまった発明を復活させることができない。
《表7:対日分割制度の相違点整理2》

六、分割案の審査手続き

さて、日本では、分割案は新たな出願となり改めて審査段階にはいります。

しかし、台湾では分割案は親案の審査段階から引き続き審査されます(34Ⅴ)。分割案(子案)は初めから審査をされるのではなく(新規出願の扱いではなく)、例えば親案が再審査中に分割した場合は、その子案も再審査から審査されるので、補正可能な時期など手続き上の利益が更に限られます。また同様に、初/再審査査定後の分割は、査定前の審査手続きから続行されます(34Ⅵ)。即ち、初審査査定後の分割案は初審査から始まり再審査査定後の分割案は再審査から始まるのです(台湾専利審査基準2019年度改正版第13章:分割及び出願変更)。

七、結論

  1. 2019年の法改正を経て、台湾特許実務における分割制度も、特許査定後の分割期間が延びるなど緩和されている。しかし、台湾では拒絶査定後の分割の機会はまだ設けられていない。この点において、日本は親案(原出願)が拒絶査定又は最後の通知の受理後、または縮減補正要件に合わない特許出願であって、権利化が必要な案件について、なお分割出願の機会がある。
  2. 一方で、分割ができる範囲については、台湾特許実務上の制限は日本の規定(補正できない時期の分割出願が、直前の明細書内容に制限される)よりも緩く、出願人はより柔軟に特許請求の範囲を調整しうる。
  3. 台湾の特許実務においても拒絶査定後の分割出願が可能となれば、当然出願人にとって台湾において特許出願をする意欲がさらに高まることが予想できる。

参考文献

  • 日本特許審査基準第Ⅲ部第4章 先願(特許法第39条)
  • 「分割出願制度の改正」パテント 2007 Vol.60 No.9 p.3~p.8
  • 台湾専利審査基準